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色んなことが嘘だった

色んなことが嘘だった。

身近な人は死なないというのも嘘だった。天才などいなくて努力がすべてというのも嘘だった。自分は一角の人間になれるというのも嘘だった。戦争など起きないというのも嘘だった。肩こりのない体質だというのも嘘だった。行きたい高校に受かるというのも嘘だった。初恋の人ともいつか会えると思っていたのも嘘だった。ずっと仲良くできると思ったのも嘘だった。恩を返そうと思ったのも嘘だった。車にひかれた野良猫を助けられると思ったのも嘘だった。

きっと何もかもが嘘にならない保証なんて、どこにもなかった。

誰かに愛してもらえるわけがないということも嘘だった。働けるわけがないと思ったのも嘘だった。恋人や家族を持てないと思ったのも嘘だった。自分の子どもなんておぞましいと思っていたのも嘘だった。カラオケなんて行けないと思っていたのも嘘だった。イベントの幹事なんてできないと思っていたのも嘘だった。人前で話せるわけがないと思っていたのも嘘だった。見知らぬ人と打ち解けるわけがないと思っていたのも嘘だった。趣味なんてないと思っていたのも嘘だった。人には境界があると思っていたのも嘘だった。たぶん人が嫌いだというのも嘘だった。

どんどん目にするもの全てが嘘っぽくなっていくように感じる。薄っぺらで、何の責任も果たさないような言葉が好まれるようになったと感じる。そのたびに本質はどこか、と探す、そしてその心根がすでに嘘っぽくて自分のことを嫌いになる、それも嘘だ。

惑わなくなったとすれば、どんどん鈍感になっているだけだ。絶望的な嘘と、希望的な嘘を僕は飲めるようになっただけだ。それくらいの時間は経った、立派な骨董品だと思うたびに僕は苦しくなり、誇らしくなる。結局、骨董品の価値も嘘だ。

ただ、色んなことが嘘だったが、そのなかの色んなことは、嘘になりたかったわけではなかった。そしていくつかはまだ辛うじて嘘になっていない。その意志を、まだ信じるんだろう。いつも嘘になる前の僕も僕だ。