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魔法の国の仕立て屋

大きな大きな魔法の国に、
古くてきれいな街がありました。

そこでは一人一人が
それぞれ魔法を一つ持っていて、
助けあって生きていました。

レンガをいくつも創り出せる魔法を持っている彼は
綺麗な色の家を丁寧に作ってくれると評判でした。
動物の声を聞ける彼女は、
とても優しい獣医さんでした。

街一番の時計台のすぐそばに、
とても腕のいい仕立て屋さんがいました。
彼の作る服はとてもきらびやか。
みんなこぞって彼の作った服を欲しがります。
みんながもっと笑顔になるように、
彼は心をこめて洋服を仕立てます。

彼の魔法は、心を織る魔法でした。
幸せな気持ちで仕立てた洋服が、
お客さんに伝わるのです。
その布地はとても心地が良い肌触りでした。

彼はずっと恋をしていました。
時計台を挟んで向こう側のパン屋さんの女性でした。
彼は毎日そこでパンを買います。
彼女を少し見られることが幸せでした。
でも彼女と仲良く話をしたことはありません。

そんなある日のことでした。
彼女のお姉さんが結婚式を上げることになりました。
お姉さんはウェディングドレスを彼に注文するのです。
お姉さんに付き添って、彼女も来てくれました。

「お姉さんのお祝いに、君の洋服も作ってあげたい」
彼は頑張って、そう言いました。
初めは遠慮していた彼女でしたが、
大好きなお姉さんの結婚式に着ていく洋服は買うつもりでした。
だから、彼にお願いすることにしたのです。

彼はとても喜んで、何日も、何日もかけて、
心を込めて二着のドレスを作り上げました。
ウェディングドレスは見事なもので、
見た目はまるで真珠を織り合わせたかのよう。
触り心地は滑らかで、木漏れ日のようでした。

でも、彼女に渡すドレスが
なぜかどうしても上手く作れません。
何度も何度も試してみたけれど、
どうしても上手く作れません。
結局出来上がったものは、
触り心地もザラザラ、
布地もバラバラ、
色もチグハグ、
サイズも合わず、
不格好。

彼女は少しがっかりしたようでした。
彼も自信をなくしてひどく落ち込んで
長い間、一人で悔し涙を流しました。
そんな様子で評判の洋服なんて作れません。
みるみる人気は落ちてしまって、
お客さんはいなくなりました。

笑い声が消えた仕立て屋さん。
何だか急に冷たく聞こえる時計台の鐘。
彼は寝こみがちになりました。

彼女は今日も朝早くからパンを焼きます。
冷たい風が強い日のことでした。

エプロンはあの仕立て屋さんが作ってくれたものでした。
ドレスを作ってくれた後、そのドレスと同じレースで、
お詫びと言ってくれたもので、やっぱり少し不格好でした。
でもそれよりも、彼の暗い顔が気になっていました。

その時、強い風が吹き込みました。
その風でパンの具材がテーブルの上から落ちました。
危ないと思った時には、かまどの火が飛び散ります。
強い光と、恐ろしい音がして、
彼女を巻き込んで爆発が起きました。

とても、とても、
長い時間が経ちました。

彼女が気がついた時、
仕立て屋さんの彼が彼女を抱き上げて
声をあげて泣いていました。
不格好なエプロンが伸びきって、
彼女の体をくるんでいます。
彼はそのエプロンごと抱き上げて、
崩れたキッチンの中で泣いていました。

いつも、どんな時でも、
彼女を守ってくれますように。
どこで、何があっても、
彼女を守ってくれますように。

そんな気持ちが丁寧に込められた
少し不格好な魔法のエプロンでした。

時計台の鐘が今日も鳴ります。
誰かに届きますように。